平成26年(ネ)第5348号 債務不履行(情報開示)請求控訴事件
控訴人 大西 秀宜
被控訴人 株式会社 日立製作所
控訴人 準備書面 その4
平成27年3月2日
東京高等裁判所 第17民事部ロB係 御中
〒 121- 0813
住所 東京都足立区竹の塚1-29-11 菅野ビル401(送達場所)
控訴人 大西 秀宜 印
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本 書 面 の 趣 旨
被控訴人より平成27年2月5日付にて提出のあった,夏井高人作成による乙第9号証については,その構成上被控訴人の反論の根幹を為すと考えられる。
然るに,乙第9号証については抽象論が多く,控訴人が経験した実態ともあまりにかけ離れている。その主要な部分については,平成27年2月10日付 控訴人 準備書面 その2について指摘したが,その他の誤りについて改めて指摘するものである。
なお,あまりにも基本的な矛盾点が多く事項が多すぎるために,6項目としたが,これでは控訴人の主張が不十分であると裁判所が判断する場合はさらに追加して示すので,訴訟指揮を願いたい。
主 張 す る 内 容
1.乙第9号証における認識の誤りに関して
指摘その1
P3 2.2JISQ15001との整合性 において
プライパシーマーク制度は、特定の個人情報取扱事業者がその保有する個人情報中の特定の種類のものについて個別に管理策を明示して認証申請することを前提としている。認証機関であるJIPDECは、申請された事項(管理対象となる個人情報、その取得方法等)に限定して評価と認証を行い、申請外の事項については何らの評価も認証も行わない。これは、個人情報の種類により管理策が異なることになる結果、認証機関が個別に審査をすることを要し、そのように個別に審査した対象についてのみ認証を与えるしかないという技術的限界によるものである。
とあるが,申請された事項(管理対象となる個人情報、その取得方法等)に限定して評価と認証を行い、申請外の事項については何らの評価も認証も行わないからといって,申請外の事項についての個人情報の取得を認めることは,プライパシーマーク制度だけでなく個人情報保護法第15条ないし18条に反するのであって,そのような運用は為すこと自体が認められない。
指摘その2
そして、被控訴人(原審被告)がJIPDECからJISQ15001に適合するものとしてプライパシーマークの認証を受けた事項を検討すると、被控訴人(原審被告)の常務としての従業員管理に必要な個人情報の通常の管理策については認証を受ける事項として掲記されているものの、本件におけるような企業の危機管理情報中にたまたま従業員情報が含まれる場合については認証事項として掲げられていない。
として,本件におけるような企業の危機管理情報中にたまたま従業員情報が含まれる場合については認証事項として掲げられていない。などと記載されているが,たとえば甲第3号証に示す資料に関しては,甲第8号証3頁において,被控訴人,プライバシーマーク事務局とも,「当該連絡は従業員との社内における行動を所属部署に伝え,職場指導を依頼するための社内連絡であることから,雇用管理の問題である」と認識を示していることが読み取れる。
このことから,“危機管理情報”であるとは夏井高人の勝手な解釈であり,認められない。
そもそも,JISQ15001及び個人情報保護法上で,“危機管理情報”という言葉自体が定義されていなく,控訴人は
個人情報保護法第18条4項二 利用目的を本人に通知し、又は公表することにより当該個人情報取扱事業者の権利又は正当な利益を害するおそれがある場合
に当たる場合を夏井高人は主張していると想定するが,たとえば甲第3号証に示す資料の検討に関する内容に関しては“当該個人情報取扱事業者の権利又は正当な利益を害するおそれがある場合”に当たるとは到底いえない。
これはたとえば,“雪印集団食中毒事件”において,社内にて賞味期限の偽装が行われた。
その隠蔽の存在を密告する社員がいた場合,雪印乳業としては“利益を害するおそれがある場合”であるからとして,当該個人を監視したであろうが,そのような“危機管理情報”は法の保護する“正当な利益”とは到底言い難く,ありかた自体が間違っており,“危機管理情報”であると主張することは失当である。
夏井高人が,さらには被控訴人が,控訴人に関する甲第3号証に示す資料などについて“危機管理情報”であると主張するのであれば,なにが“危機管理情報”に該当し,それが個人情報保護法のどの条文に当てはまるために開示しなくてよいか示さねばならない。
当然その上で,甲第8号証3頁において,被控訴人,プライバシーマーク事務局とも,「当該連絡は従業員との社内における行動を所属部署に伝え,職場指導を依頼するための社内連絡であることから,雇用管理の問題である」としたことについて,被控訴人は釈明する必要も生じると控訴人は主張する。
指摘その3
具体的に示すと、被控訴人(原審被告)がJIPDECからJISQ15001に基づくプライパシ一マ一クの認証を受けている事項中で項目12であり、そこでは、個人情報の種類として「業務遂行上必要な従業員、派遣社員、販社・ビジネスパートナー従業員などの個人情報を取扱う業務」とあって全ての種類の従業員の個人情報であることは認められるものの、その取得方法に関しては、Webサイト他により従業員等から日立が直接個人情報を取得(直接書面取得)」の場合のみである。要するに、被控訴人(原審被告)がJIPDECからプライパシーマークの認証を受けた個人情報は、被控訴人(原審被告)が従業員本人以外の第三者から取得した個人情報や被控訴人(原審被告)自身の判断結果・評価結果として生成される情報を含まない。
と夏井高人は主張し,控訴人が開示を求める資料については,乙第12号証の項目12には当たらない旨を延々と指摘しているが,第三者機関であるプライバシーマーク事務局は,甲第3号証の資料については甲第8号証3頁にて「雇用管理の問題である」と判断していることから,乙第12号証の項目12に当てはまると判断したことが伺える。
夏井高人が異なる主張を平然としてくることからも,プライバシーマーク事務局は,第三者機関としての任務を為していないことが判明する。
また,甲第10号証からは,経済産業省がどのような検討をしたのかは不確かであるが,被控訴人は「雇用管理の問題である」と主張し,経済産業省もそれを認めた可能性が高い。
なお,控訴人が新たに提示する甲第○号証(JISQ15001:4頁)においては,
3.4.2.3 特定の機微な個人情報の取得,利用及び提供の制限
事業者は,次に示す内容を含む個人情報の取得,利用または提供は,行ってはならない。(控訴人略)
a) 思想,信条又は宗教に関する事項
とあり,夏井高人が主張するとおり,いくら被控訴人がJIPDECに申請していなくとも,思想・信条については収集してはならないことが定められているのである。
なお,夏井高人の資料においても頁11上部に,当該内容を認知している旨の記載がある。
もちろん,控訴人が被控訴人と労務契約を為したときに,判断・評価となる情報を収集することについては合意を為したと考えられるが,それもすなわち,判断・評価の基となる情報を,乙第12号証の項目12に示す手順にて,直接個人から収集したことになると解釈されると考えられる。
というのも,一般的に労務の成果は上司に対して書面にて報告するのが通常であり,仮に上司が第三者から就労者に関してなんらかの情報を得たとしても,上司が就労者に関して最終的に判断を為し,企業として記録をするのは,就労者本人から直接ヒアリングし書面化したものをベースとするからである。
だからこそ,控訴人が被控訴人に勤務するときに,Webベースによる勤務評価システムを構築し,それをもって被控訴人はプライバシーマークの認証を受けたものと,控訴人は推測する。
少なくとも夏井高人による,“被控訴人(原審被告)がJIPDECからプライパシーマークの認証を受けた個人情報は、被控訴人(原審被告)が従業員本人以外の第三者から取得した個人情報や被控訴人(原審被告)自身の判断結果・評価結果として生成される情報を含まない。”という解釈は誤っている。
夏井高人による解釈をJIPDECが認めるのであれば,甲第9号証3頁目A-3に示すとおり,既に公表されている情報が個人情報として保護されないこととなり,そもそもプライバシーマーク制度自体が,個人情報保護法第15条ないし18条に違反したものとなる。
このため,続いて夏井高人が進める解釈に基づき,
そして、JISQ15001所定の開示手続は、プライパシーマークの認証を受けた事項についてのみ適用される。プライパシーマークの認証が存在しない個人情報に関しては、制度上、JISQ15001所定の手続に基づく開示もあり得ない。
とするのであれば,プライバシーマーク制度はプライバシーマーク制度自体及び個人情報保護法に違反してもよいことになるのであるから,このような主張は当然認められない。
指摘その4
P4 2.3 個人情報保護法25条との整合性において
ところで、本件において原審原告(控訴人)が開示を求めている個人情報は、被控訴人(原審被告)の危機管理情報の中に含まれているものであり、その性質上、同法25条l項2号所定の例外事由に該当し得る場合が一般的に多いという点を一応措くとしても、その個人情報としての性質及び数量等からして、個人情報の保護に関する法律施行令(平成15年政令507号)2条及び3条所定の個人情報データベースを構成しない個人情報または保有個人データに該当しない個人情報と解すべきものと推定される。
とあるが,そもそも指摘1にて示したとおり,控訴人に関する甲第3号証をはじめとする情報の収集に関して,危機管理情報であるかどうかの証明を被控訴人は為していなく,その上で,そのような情報が“個人情報の保護に関する法律施行令(平成15年政令507号)2条及び3条所定の個人情報データベースを構成しない個人情報または保有個人データに該当しない個人情報”に該当するかどうかについては,控訴人も裁判所も判断できるものではなく,被控訴人が証拠を提示していない状態において夏井高人の推定により,“該当しない”と裁判所が判断する根拠となることはあり得ない。
夏井高人はこの後も,“危機管理情報”に関して延々と説明をしているが,被控訴人が持つ控訴人の個人情報が“危機管理情報”であることの証明が為されていないので,そのような説明については為すこと自体,論理が一段飛躍しており,失当である。
指摘その5
P6 3.1 条文上の文言について
当該部分について個々に記載はしないが,趣旨として,夏井高人は個人情報保護法25条1項に関する裁判規範性について否定している。
控訴人は,平成27年2月10日付控訴人準備書面その2にて記載したとおり,個人情報保護法25条1項には裁判規範性があると主張するが,とりわけ指摘その2に示したとおり,今回はじめて夏井高人が控訴人の個人情報を“危機管理情報”として記載してきたことと甲第8号証3頁を比較すると,被控訴人,プライバシーマーク事務局,経済産業省,内閣府ともに,控訴人の個人情報をいったいどのような情報としてどのように検討したのかについては,むしろ不透明度が増している。
このような状態において控訴人には,裁判所の援助を借り,被控訴人より“開示の求め”に当たる内容に関して開示を請求することは当然である。
なお,被控訴人も夏井高人も,個人情報保護法25条1項に関する裁判規範性について,立法上検討されてこなかったと主張しているが,法律を,企業,第三者機関,日本政府すべてが隠蔽するような状態を検討せねばならないような国家があるとすれば,それはもはや法治国家とはいえない。
少なくとも日本政府職員は,国家公務員法第101条の職務専念義務を負うことが性善説的に認められた上で,個人情報保護法25条1項に関して詳細に検討されてこなかったと見るべきであって,個人情報保護法25条1項に関する裁判規範性について立法上検討されていないことをもって,裁判規範性がないと解釈することはできるはずがない。
また被控訴人が本資料8頁上部の記載に従い,民法709条に関する損害賠償請求などを認めると主張し,かつ裁判所がそれを支持するのであれば,控訴人の請求の基礎は変わらないのであるから,控訴人は甲第3号証をはじめとする資料の作成に起因し,名誉毀損に起因する損害賠償請求及び懲戒処分の無効確認について,訴えを追加し申請する。
なお,名誉毀損に関する損害賠償請求及び懲戒処分の無効確認については別訴にて請求しているとして,平成27年1月13日付控訴人準備書面1 頁14にて記載したが,甲第○号証に示すとおり,最高裁判所が理不尽にも訴訟救助申請を却下してきた。
このため,既に具体的に審理をしていただいている本審にて審理いただくのが合理的であると控訴人は考えるものである。
もちろん裁判所が,控訴人が主張するとおり,個人情報保護法25条1項に従って被控訴人に対して控訴人の個人情報の開示を認めるのであれば,控訴人は被控訴人から控訴人が受けた不利益の度合いを精査し算定できるのであるから,本審の訴えに追加するよりも別訴としたいと控訴人は考える。
少なくとも裁判所が,個人情報保護法25条1項のみに従って被控訴人に対して控訴人の個人情報の開示を認めない判決を下そうと検討する場合は,被控訴人の主張に従い,訴えの追加的変更をしたほうが良い旨を提示いただきたい。
指摘その6
P11 3.2 マネジメントシステムの考え方
しかし、現行法の解釈論としては、個人情報保護法25条l項の現行の条文のままで「訴訟上の開示請求権を認めるべし」との見解は、立法論に属するものであって解釈論の範疇から大きくはみ出ていると理解するしかない。
とあるが,改めて個人情報保護法25条l項を見るところ
第二十五条 個人情報取扱事業者は、本人から、当該本人が識別される保有個人データの開示(当該本人が識別される保有個人データが存在しないときにその旨を知らせることを含む。以下同じ。)を求められたときは、本人に対し、政令で定める方法により、遅滞なく、当該保有個人データを開示しなければならない。
とあるのであり,条文をそのまま読めば,他の訴訟と同様に,控訴人が裁判所に対して,当該保有個人データを開示していないと思料するに足ることの立証をすれば,開示請求権は認められると考えられる。
むしろ,条文をそのまま読むことなく,被控訴人及び夏井高人が“現行法の解釈論”として延々と主張を展開し,現行の条文のままで「訴訟上の開示請求権を認めないべし」との見解は,立法論に属するものであって解釈論の範疇から大きくはみ出ていると理解するしかないものである。
2.まとめ
1. 以上のとおり,夏井高人作成による乙第9号証は恣意的な解釈に終始しており,裁判所は個人情報保護法の文面と比較しても,控訴人の提出した甲第37号証及び甲第39号証に優越する根拠として採用することはできないと,控訴人は主張する。
添 付 資 料
- 以 上 -
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